俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

追悼ムツゴロウさん

『追悼特番 ありがとう!ムツゴロウさん』(フジテレビ系)を見た。かつてフジテレビで放送していた『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』の映像を編集した特別番組だったが、MCや変なゲストなども呼ばず、ひたすらムツゴロウさんの映像を見せる潔さが実に良かった。

それにしても去年のアントニオ猪木さんといい、昔の破天荒な人がまた一人亡くなってしまったな。自分の大好きなことだけを好きなだけ楽しんで人生を全うした奇人・ムツゴロウさん。ご冥福をお祈り申し上げます。

追悼・アントニオ猪木様 - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

ライオンにかじり取られた中指!

僕は小学校の卒業文集に「将来の夢:獣医」と書いていたのだが、もちろん理由は『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』を観ていたからだ。”北海道の動物王国に行って獣医として働く”。それは昭和の子どもにとって、そこまで奇異な夢ではなかった。なぜなら当時は実際にムツゴロウ王国に飛び込みで入国(?)する若者も多かったからだ。獣医や飼育員になれるほどではないが動物好きな人、人間とはコミュ障だが動物とならと思い込んでムツゴロウ王国に行った人などが多かったらしい。

まだ小学生の子どもだった僕は動物を飼育することの苦労なんて想像もできなかった、まだムツゴロウさんがライオンに指を食いちぎられたりアメリカのバカでかいナメクジを生で食べたりする映像が出る前だったので、「たくさんの動物に囲まれて楽しそうだなぁ」くらいの憧れだったのだろう。

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 その後ジャニーズ・プロ野球選手・プロレスラー等に憧れつつも現実的な夢へと方向転換した僕であったが、依然ムツゴロウさんは気になる存在だった。

 僕が『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』でもっとも衝撃を受けたシーンが、ムツゴロウ王国の自宅で飼いだした大型犬が発情し、ムツゴロウさんに向かって腰を振り始めた時、(「 」はムツゴロウさんのナレーション)

「これはね~、発情してるんですね~。こうやってね~、私にのしかかってくるようになったので彼の願いを叶えてあげることにしました。」

するとおもむろに大型犬のペニスをつかみ、手コキをして射精をさせてあげるムツゴロウさん

「見てください。終わると私から離れてバツの悪そうな顔するでしょう?犬にも恥じらいがあるんですねぇ~」

と手に精液をつけたまま嬉しそうに語るムツゴロウさん。

このシーンを観て「いや、すげぇな。さすがにこれはできないわ。行かなくてよかった」と当時の僕は思ったな。

で、追悼番組を改めてみると、この人は「動物への愛」とかきれいな言葉じゃなくて、とにかく”好き”っていう気持ちがあって、”動物と触れ合いたい!遊びたい!知りたい!”っていう好奇心が溢れて止まらない感じだった。はっきり言って動物に対して”ド変態”で”クレイジー”という言葉に尽きる。

動物に触れあうコツはとにかく”脱力”だそうで、のしかかられても噛まれても絶対に体を硬直させない。もちろん大声を出したり走って逃げたりは論外。ライオンとの触れ合いではさすがに死を感じたそうだが、そりゃライオンはじゃれたり甘噛みしてるつもりでも人間からしたら普通に怪我をするレベルだ。でもそこで抵抗したり騒いだり、逃げ出したりしたらライオンはさらに興奮してしまう。だから噛まれても引っかかれても”脱力”。むしろ口の中に手を突っ込んでいく。まさにクレイジー

格闘家だって強い相手に対峙したら緊張して体が硬くなるのに、ムツゴロウさんはライオンでもヒグマの前でも力を入れない。ある意味最強だ。だって「いくらでも噛まれてもいい。引っかき傷は受けて当然。最悪体の一部が亡くなってもしょうがない。動物のテリトリーに入っている自分が悪い」といつも覚悟していたのがすごい!

だから動物に対しては怖いもの知らずだ。動物に対して「怖い」という気持ちよりも「面白い!」が勝り、なんなら「じゃれあって遊びたい」「踏まれたい」「あわよくば噛まれたい!」くらいのドM感覚もあったのかもしれない。ムツゴロウさんは動物に囲まれると嬉しそうに地面に寝そべる。大きめの鳥が顔の上に乗ってきて鋭い爪が顔に喰い込もうと、小さいクマが股間に顔をうずめてこようとお構いなし。鋭い牙を持つ動物の口の中に積極的に指を入れ「よし、噛め、いいよ。食べ物じゃないだろ?」なんてことを平気でやってしまう。もちろん東大理学部で動物学を学んだ秀才であり、様々な動物と触れ合ってきた知識と経験に基づいたものであるのだろうが、普通に命の危険に何度か遭っているのがちょっと笑ってしまう。

動画】ムツゴロウさんの指はいつなくなった?決定的瞬間が衝撃!!

そういえば僕ら昔からの視聴者は「ムツゴロウさんは優しいなぁ」「動物愛に溢れてるなぁ」なんて思っていなかった気がする。動物と舌を出し合いディープな舐め合いをしている姿を見ては「汚ねぇなぁ」と思い、「よ~しよしよし、怖がらない怖がらない。大丈夫大丈夫」と野生動物にしつこくスキンシップを測ろうとする姿を見ては「動物嫌がっとるがな」とツッコんでいた。メスを持って猫の避妊手術をするムツゴロウさんには「免許持ってるの?」と不安になり、象の小便を頭から浴びて「うわあ~すごいな」と笑うムツゴロウさんを見ては「気持ち悪ぃ!」「よくやるなぁ~俺なら絶対いやだわ」「頭おかしいよな」とdisっていた。変態ぶりは昔からずっと同じだったし、そういえば昔から”おじいさん”の姿をしていたような気もする。

珍しい動物に会いに行くために世界中を旅して回っていたムツゴロウさん。現地のガイドや飼育員も最初は「すごいなぁ。全然怖がらないで近づいていくぞ!」「すごい!普段知らない人間には心を開かない獰猛な彼を、Mr.ムツゴロウは手なずけている!」と驚いたり関心をしたりするのだが、次第にムツゴロウさんのド変態ぶりに呆れたり気味悪がったりするのも見ものだった。アメリカの巨大なナメクジをガラスに貼り付け、足の裏の動きを詳しく解説した直後に、おもむろにそのナメクジを口に入れて飲み込んだ時の現地のアメリカ人の驚いた顔といったらなかった。「気持ち悪っ!こいつバカか!」と思ったろうな。

 晩年は動物王国の動物も数を減らし、犬猫数匹と暮らしていたというムツゴロウさん。動物よりも麻雀に熱中していたとも言われるが、とにかく僕の好きなおじさんがまた一人いなくなってしまった。破天荒で奇人変人でド変態、自分の好きなことだけを満喫して天国へと旅立ったムツゴロウさん。サヨウナラ。

ムツゴロウさんが最も可愛がった生き物は実は奥さんかも