夕方5時、総武線の上り列車
ボクは千葉方面から乗っていたので比較的空いていた車内の端っこの座席に腰を下ろし
うつらうつらしていた。
眠い・・・。
ひたすら眠い。
電車の揺れは、疲れた体に心地よく、僕は熟睡体制に入ろうとした。
すると電車は市川駅に止まり、やけに派手な女が乗り込んできて僕の隣に座った。
はっきり見たわけではないが、眠ったふりをしながら、薄目を開けて見て見たら
ショートジーンズでハイヒール、
そして香水の匂いがプ~ンと鼻腔をくすぐった。
ああ、このええ匂いに誘われてまた眠くなってきた。
電車が走り出すと、また僕は深い眠りに落ちかける。
すると突然、ウィ~ン、ウィ~ンという電話の震える音が。
僕のか?いや、違う。隣りに座っている女の電話だ。
(ほう、マナーモードかい。見た目の割りになかなかしっかりしてるじゃないか)
と思った瞬間、
「もしもし~?なに~?」と電話に出る女
(待てえい!貴様、電車の中だぞ!というか、なんのためのマナーモードやねん!)
眠ったふりをしたまま、突っ込みを入れるボク
「え?今、電車の中よ。大丈夫」
(待て待て待てぇ~い!大丈夫じゃない!電車の中だっつーのっ!)
しかし注意できるほどの度胸もない中年男は、黙って女の電話に聞き耳を立てるのであった。
「え?これから仕事よ。何?今日、遅いよ。いつも遅いよ」
どうやら、女は日本人ではないらしい。
アクセントからすると、タイか?フィリピンか?
そのたどたどしい発音が、けっこうかわいいのである。
「お客さんいないよ。お金ない。財布五千円しかない。お金貸してよ(笑)」
(ホステスか!まんまフィリピンパブ嬢か!会話丸聞こえぢゃないの!)
「うそうそ冗談よ。でもお金ないから仕事よ」
(冗談なのかホントなのかどっちだ~い!というか、お姉さんのお店はどこだ~い!結構働きもんで感心やないか~い)
「え?昨日寝てないよ」
(おいおい、それは客と寝てないという意味か?徹夜で寝てないという意味か?)
「眠いよ。でも仕事休めないでしょ」
(あ~ん、良かったぁ。そっちのほうね。偉いね。あ、偉くないか。とにかく車内の通話は…)
「タケウチさんじゃないよ。そうじゃないよ。今日でしょ?」
(タケウチさんて誰だ!どこのどいつだ!パトロンか?スケベな乗客か?今日何があるんだ?)
「もう駅に着くからまたね」
(待て待て!タケウチさんて誰だよ!途中で止めんじゃねーよぉ!おい!アニータぁ!)
そして女は錦糸町駅で降りていった。
ボクは寝たふりを止め、後姿を見送った。
茶色く染めた髪
ショートジーンズからのぞく小麦色のおみ足
キュッとしまった御尻
後姿が超セクシーだった・・・
最近、車内で全く躊躇なく、平気で通話している輩が多い。
それは意外にも、ビシッと背広を着たサラリーマンだったり
若者に眉をひそめているおじさん、おばさんだったり
席を譲ってもらえそうなおばあさんだったりする。
100歩譲って、「今電車の中だから後で」と言う為に電話に出るのは認めよう
しかし、本当に何の躊躇もなく、声をひそめるでもなく、周りを気にするでもなく通話している奴が結構多い
しかし面と向かって注意する勇気も度胸もない僕は
いつも心の中で
「できるだけ早く、できるだけ不幸な形で死んでくれればいいのに」
と心底願い、
頭の中でボクがそいつに往復ビンタをかましている映像を流すことぐらいしかできない。
ちなみに、先ほどのフィリピン嬢に関しては
なぜかバックから尻をペシペシ叩いている映像が流れましたけど・・・・・なにかご不満でも?