シルバーウィークの最終日
僕は朝から所用ででかけていた。
幸い、用事は11時には終わったので昼前には帰路につけた。
今日のお昼は・・・・・・日高屋かな?
日高屋には本当にお世話になっている。
僕はラーメン大好きながら、一人飯にはワンコインしかつかわない貧乏性
だから雑誌やテレビのラーメン特集を見るたびに「あ~あの店のラーメン食いて~な~」と思いつつ
結局はワンコインで食べられる日高屋に落ち着いてしまう男なのだ。
以前は週に3回くらいはお世話になっていたので、最近、少々飽きてはいるのだが、
それでも日高屋は貧乏サラリーマンの強い味方なのだ。
僕はテーブル席に座り、期間限定の「野菜旨煮つけ麺」を注文。
正直、つけ麺自体は普段そんなに食べない。
ちょっとシンプルすぎるのと、スープが途中で冷めるのと、野菜不足が気になるからだ。
が、野菜旨煮つけ麺なら、野菜もとれるし、冷めにくい(かもしれない)。
僕はうきうきしながら野菜旨煮つけ麺の到着を待っていると、店内に子供連れの家族が。
まずい・・・僕の隣りのテーブル席が空いている・・・
案の定、娘2人とパパママの4人家族は僕の隣りに案内された。
僕は子どもも嫌いだし、幸せ家族ってのも嫌いなのだ。
それなのに、僕と隣りのテーブルの間は30㎝ぐらいしかない。
こんな至近距離で幸せ家族の一家団欒なんて聞きたくね~な~。
すると、母親に奥の席に座るよう言われた妹が、僕の隣りの席に座るべく、30㎝の隙間に体を入れる。
背中にはピンクの大きなリュックを背負っている。
ああ、いやだいやだ。
子どもって周りが見えてないのが嫌だね。
案の定、妹はリュックで僕のテーブルの上のお冷をすこし動かしながら、僕の隣りの席に座った。
「ったく・・・シルバーウィークのお出かけだってのに、日高屋で安く済ませようとしてんじゃねーよ!」
と自分のことを棚にあげ、心の中で悪態をつきながら水を一口。
「小さい子ども連れならファミレスでも行けや!」
と、同時に、僕の野菜旨煮つけ麺が到着。
無料大盛り券を使っていたのでかなりのボリュームだ。
まずは箸で一口分の麺を持ち上げ、野菜旨煮につける。
普通のつけ麺と違い、あんかけなので、麺が沈まない。
そこでちょっと箸でぐるぐるあんかけの中を泳がせてとりあげると、これがまた麺に絡む絡む。
それでは一口。
「熱っ!ハフッ!オホ!旨っ!」
どろりと熱々濃厚なあんかけの味があって、麺のくにゅくにゅした感触がある。
あ~、うま!
もともとあんかけ大好きな僕は自分の選択の正しさに納得し、間髪いれず、二口目の作業に取り掛かった。
すると、隣りのテーブルからお父さんの低い声が響いた。
「どうして牛乳忘れたんだ!」
僕は二口目の麺を口にくわえつつ、そば耳を立てる。
「だから忘れないように紙に書きなさいって言ったでしょ!」
お父さんは正面に座っているお姉ちゃんにするどい視線を浴びせている。
どうやらお姉ちゃん(推定10歳)は、牛乳を買うお使いを忘れてしまったようだ。
お父さんの厳しい追及が続く。
「宿題はやったの?」
お姉ちゃんは答えない。
僕はなるべく音が立たないように、麺をちゅるっと吸い込んだ。
お母さんがさっと注文を済ませている間も、お父さんのお説教が続く。
「う~む、これは修羅場・・・」
どうやら、シルバーウィークの宿題をお姉ちゃんはやっていなかったらしい。
「おいおい・・・今日、最終日だぞ・・・・お姉ちゃん何してたん?」と心の中で突っ込んでみるが
お父さんに冗談は通じないらしく
「宿題はいつやるんだ」と厳しく追求する。
お姉ちゃんは少し不貞腐れた態度をとっているようで、それがまたお父さんをいらつかせる。
無言のお姉ちゃんと、詰め寄るお父さん。
落ち着きのない妹と、なるべく関わらないようにしているお母さん。
なんだよ、この家族・・・・・・。
すると、ここでお父さんの「野菜旨煮つけ麺と餃子のセット」、お母さんの「かた焼きそば」、お姉ちゃんの「ラーメンセット」、妹の単品餃子と小皿(お母さんから少しもらうらしい)が到着。
お父さんはとたんに声色を買え「すみまっせ~ん」とお盆を受け取る。
お盆を各自の前に置くと、お父さんはまたお姉ちゃんを見据え、
「宿題は何時にやるの」と聞いてきた。
声はまた低く、周りに聞こえないように抑えた声だ。
子どもはその声色の変化をちゃんと見ている。
お母さんは妹の餃子のタレを作りながら「御飯は来ましたよ~」と言ってやんわりお父さんに中断を求める。
どうやら、この家庭は結構な亭主関白のようだ。
お父さんは仕方なく箸を取り上げ、「いただきます」の合図をすると、お母さんも妹も「いただきます!」
お姉ちゃんは少し遅れて小さな声で「いただきます」と唱えた。
僕の野菜旨煮つけ麺も中盤を迎えた。
ここまで来ると、少し落ち着いた分析ができるようになる。
野菜の旨煮は、ちょっと具の少ない中華丼の具のような感じ。
日高屋にはもともと中華丼もメニューにあるから、割と簡単な応用メニューといった感じか?
ただ、それならもう少し肉とかイカとか入っていてもいい気がするな。
でも野菜入りのあんかけってのはいいな。
是非ともレギュラー入りしてもらいたいもんだ。
隣りの席ではお父さんの尋問が続いていた。
「宿題は何時にやるんだ!」
お姉ちゃんは答えない。
すると妹の世話をしていたお母さんが少し助けを出したほうがいいと思ったのか
「お姉ちゃん、約束でしょ。宿題してから遊ぶの。ね、御飯までにやっちゃいなさい」と優しく諭す。
お姉ちゃんはしぶしぶ
「・・・・・・・・7時」と答える
お父さんはやっと納得したのか、表情を変えずに
「お姉ちゃん、餃子食べる?」と聞く。
お姉ちゃんは首を振ったものの、お父さんは強引にお姉ちゃんの半チャーハンに餃子を載せた。
ああ、いやだいやだ。
こんなとこまで来て喧嘩してんぢゃねーよ。
飯がまずくなるぢゃねーか!
そもそもそんなに子どもが嫌なら二匹も作ってんぢゃないよ。
なんで結婚なんてするんだろうね。あ~あ、独身でよかった (←負け惜しみ)
僕の野菜旨煮つけ麺も後半戦に突入だが、正直、後半、味がわかんなくなってきた。
もっと集中させてくれよ!
なんか俺が怒られてるみたいでめっちゃ嫌な感じなんだよ!
おそらく、僕の隣りに座っている妹も同じ気持ちなんだろう。
後半、食べるのを止め、餃子を箸でつついて壊し始めた。
お行儀が悪い。
僕はお行儀が悪い子が大嫌いなのだ。
なのに、妹の餃子いじりはますますヒートアップ
右手と左手に一本ずつ箸を持ち、それを餃子に突き刺した。
それを左右に引っ張り始めたのだが、これはやばい!
皮が切れた途端・・・・・・・と思ったら、案の定、餃子のタレが「びちゃっ」と机の上にこぼれた。
僕は思わず妹の手を叩いてやりたい衝動にかられた。
が、お父さんが怖かったので思いとどまった。
仮に僕が妹の手を叩いていたら
果たして、お父さんは「すません」と僕に謝って、「だめじゃないか!」と妹を叱っただろうか。
それとも店内で唯一一人で昼飯を食っている僕に「何するんですかぁ!」と怒鳴っただろうか・・・・。
僕は最後の一口をすすった。
お盆の上のレンゲが必要ないくらい、麺とあんかけの量がぴったりだった。
最後の一口はやや冷めてしまったが、
それでも日高屋の期間限定メニューの中では当たりメニューだった。
が、なんか・・・・釈然としない・・・
僕は4人家族を尻目にお会計を済ませ、家路についた。
はあ。
また深夜にでも、一人でゆっくり食べにこよ・・・