これが結構面白かった。
この本は、力士のまげを結う専門の技術者である、一人の「床山」に関する本である。
実は力士と同じように、床山にも階級(1等~5等)があり、階級によって給与も、髷を結う相手も変わってくるらしい。
この本の中で、一番印象的だったのは、床清が入門したばかりのときに、師匠から「力士が何故髷(まげ)をしているのか」を教わる場面である。
力士の髷(まげ)の最大の目的は、力士の頭部を守ることである。
体重100㎏を超える力士達が、土俵の上から投げ飛ばされることもある。
その際、頭から落ちても大怪我をしないようにするのが、大銀杏(おおいちょう)の役目で、そのために、髪を大きく外に膨らませ、尚且つ形が崩れないように固定するのが床山の技術なのだ。
だから床山は、力士が投げ飛ばされたとき、まず自分が結った髷が頭を守ってくれたかどうかを気にする。
「自分の結った髷で力士を守る」
その強烈なプライドが仕事の腕を磨かせたというのである。
・・・・・・・格好いい。
僕はこういう”裏方のプロ”の話を聞くのが大好きなのだ。
華やかな表舞台の裏で、その世界の「超一流」と認められた人って、めちゃめちゃ格好いい。

だから昨日の大相撲秋場所千秋楽
本割が終わって、優勝決定戦をする前に、一度支度部屋で髷を整えるのだが、
こういうのを読むと、また大相撲を見る目が変わるよな・・・
さて、肝心の相撲のほうだが、これまた最高の一番だった。
僕は普段、結果は少し気にするが、毎場所真剣に見るほど相撲ファンというわけではない。
正直に言うと、相撲、けっこう久々に見た(もちろん、TVで)。
で、これがもう、ものすごく面白かったのである!
まず、小学生の時は退屈で仕方がなかった、勝負前の”仕切り”
お互いの気合を高める儀式であるが、これがまた面白い!
時間が近づくにつれ、見ているほうも息が苦しくなるぐらい緊迫してくるのだ。
口を尖らせ、目をきっと細めて睨みつける朝青龍
これだけ緊張感のある仕切りを見せられるのは今のところ、この2人の対戦のみだ。
正直、他の力士の仕切りはやる気があるんだかどうかわからないし、稀に気合が入っていても、なんか不良同士の喧嘩のような安っぽさを感じる。
それは、子どものときに感じた「つまらない」仕切りそのものだ。
だからこそ、仕切りだけでこれだけ見ている人をドキドキさせられるのは、さすが横綱としか言いようがない。

あの立会いのスピード、顎を引いて下から押し上げる角度、そしてパワー。
朝青龍が全く歯が立たない!
普段は横綱として、下位の力士の当たりを胸で受け止めつつ、勝っていた。
横綱同士の優勝争いだからこそ見られたといっていい。

*この写真は今場所ではありません
そして優勝決定戦。
これまたすごかった・・・・・。
この体勢は小兵の力士が大柄の力士に見せるものだが、あまり上位のものが下位のものにやるものではない。
が、今度は朝青龍が何フリ構わず勝ちに来た。
こうなると白鵬は厳しい。
もうプライドも何もない。
ここまで体勢を不利にされたら、他の力士ならあきらめてしまうか、あっさり土俵を割るところ。
が、白鵬は絶対にあきらめない、絶対に勝負を捨てない、そんな気迫が伝わってくる。
朝青龍が寄りきろうとするところを何とか耐え、
投げようとするのもこれまた耐えて、
なんとか腕をねじ込み、勝機をさぐる。
そして最後は下手投げで白鵬を放り投げた。
いや、ものすごい一番だった。
意地と意地、力と力、技術と技術、
すべてをぶつけあった最高の一番だった。
本当に、他の全力士に見習ってもらいたい、最高の一番だった。

土俵を降りる際、朝青龍は両手を挙げてガッツポーズ
「朝青龍はいつも反省している。狼少年だ」とガッツポーズをめった切り。優勝についても「心が充実せず、技も磨かれず、けいこ不足で体がぷよぷよ。優勝はまぐれだ。心技体を鍛えて出直していらっしゃい」とまくし立てた。
が、これもまたいつもの風物詩。
大相撲の伝統なんて知らない僕は「またつまらないことで・・・」と気にも留めない。
が、大相撲の本当に由々しき問題は、日本人力士の不甲斐なさ、大関陣のなさけなさである。
このことが、いつも「朝青龍問題」の陰で取り上げられないままでいる。
サラリーマンのように「幕内にさえいられればOK」というような態度を見せる。
稽古をしていない朝青龍に”まぐれの優勝”をさせてしまう、日本人力士達
やつらは100年かかっても”まぐれの優勝”をすることすらできまい。
心・技・体の一つでも持っていてほしいものだが、一つも持っていない者も多いかもしれない。

そもそも、幕内の日本人力士で、暴れるほど悔しい思いをしている力士がどれだけいるだろう?
勝ったらガッツポーズがでるぐらい、重いプレッシャーを感じている力士がどれだけいるだろう?
”勝ち越し”か、いっても二桁勝利ぐらいが最大の目標のサラリーマン力士たち
彼らの分まで、批判を浴びせられ続けた朝青龍を一体だれが攻められよう。
むしろ僕は、相手が土俵を割っても”ダメ押し”をしてしまうぐらいの闘争心を日本人力士にも持ってもらいたいくらいなのだ。
それぐらい、今の日本人力士には気迫が足りない。
順当にいけばそうなる。
が、ここで「国技がダメになる」とか「外国人ばっかりでおもしろくない」というのはお門違いだ。
今回の優勝決定戦は、他の格闘技、スポーツと比べても恥ずかしくないくらい、
大相撲のおもしろさを体現してくれた。
嘆くべきは外国人力士の多さより、日本人の不甲斐なさである。
そろそろ、幕内力士の給与を普通のサラリーマン並みに下げて、危機感を募らせたほうがいいのではないかと思うのだが、どうだろうか?

それにしても、土俵上の勝負の鬼は、なんでこんなにかっこいいのだろう・・・・・