9月から週に1回、仕事で御茶ノ水に来るようになってから、ずっとこの店のことが気になっていた。
僕と博多ラーメン(?)の出会いは15年前
旅行で福岡を訪れた時に初めて本物の豚骨ラーメンを食べて、本当に感動したのだった。
それから、東京でインスタントの豚骨ラーメンを食べるたびに「違う・・・」
東京のラーメン屋で、醤油、塩、味噌と並んで出される豚骨ラーメンを食べるたびに「違う・・・」
そう思いながら15年間を過ごしてきたのだった。
そしてここ数年は、本場の豚骨ラーメン、それも専門店が東京に進出してくるようになっていたが、僕はなんとなく入れないでいた。
なんか、ものすごい偏見かもしれないが、
僕にとって博多ラーメンは「こなれた人が行くもの」みたいなイメージがあるのだ。
なんか常連さんばかりのバーに入るような疎外感、「一見さんお断り」みたいな敷居の高さを感じてしまうのだ。
なぜだかわからない。
おそらく、初めて福岡の屋台に入ったときのトラウマだと思う。
僕が初めて福岡の屋台に入った時、明らかな旅行者であった僕と友だちはその屋台で浮いてしまい、注文もスムーズにできず、パンチパーマの主人にビビリ、あまり楽しめなかった記憶がある。
関東から来た小心者の旅行者である僕らは、なんか寂しく中洲の街を歩いたのであった・・・。
そして「今日こそは、替え玉を注文するぞ!」と心に決めて入店したのであった。
実はこの店に入る前に、店の前を3往復ぐらいして、店内をチラチラ観察し、注文するものは決めていたのだ。
僕は「ラーメン!」と力強く厨房の親父に告げた。
東京では「ラーメン」だけでは醤油ラーメンが来てしまうのだが、ここは「博多天神」
「ラーメン」といえば、豚骨がやってくるのだ。
ラーメンは意外に早くやってきた。ものの3分とたっていない。
「作りおきか?」と勘ぐってみたが、どうやらみんなそうらしい。
「えっと、これ、なんだろう?」
テーブルの上にいろんなものが置いてある。
とりあえず紅しょうがを入れるのは知ってる。
紅しょうがをトングで一つまみ。
なるべく素人に見られないように、自然に、自然に・・・・
すると僕の隣りに、いかにも”常連さん”らしき学生が腰を下ろし、これといって声も張らずに
「ラーメン、バリカタ」とのたまわった。
バリカタ?
なんだろう?僕は隣りに座った人がインドネシア人かなんかかと思ってチラ見したが、
どっからどう見ても日本人青年だった。
ラーメンバリカタ?
そんなのメニューにないぞ?
僕はスープをすすりながら、壁際のメニューの中から「バリカタ」なる単語をくまなく探す。
ほどなく、隣りの青年のところに、僕が注文したものとまったく同じものが到着した。
????
すると青年はそのまま流れるような手つきで
カラシ高菜、紅しょうが、たれ、こしょう、白ゴマを振り掛け、スープをかき混ぜ始めた。
僕はそれを横目で見ながら、
「ぼ、僕はまず、スープそのものの味を確かめてから味付けする派なんだもんね。そっちのほうが通なんだもんね」
と強がりをいいながら、またスープを一口吸い上げた。
もっとも、隣りの青年は食べ慣れているのでスープそのものの味を確かめる必要がなかったんだろうけど。
僕は「うん、この店、なかなかいいじゃない。とんこつラーメン好きの僕の舌にもかなうよ」と
精一杯食べなれた演技をしつつ、隣りの青年の真似をしてカラシ高菜、たれ、こしょう、ゴマを後載せした。
それにしても旨い!
きくらげがたっぷり載ってて、けっこうボリュームもある。
そしてこの細くて固い麺!
とんこつはこれでなくちゃ!
スープがうめ~。濃厚でくり~み~!!
カラシ高菜も紅しょうがも、そんなに辛くはなくて、いいアクセントになっている。
ふと、僕は目の前に「替え玉無料券」がかごに入っていることを発見。
これって、すぐ使えるのかな?
ここで僕は「ふ~ん、こんなチケットがあるんだ~。今度来たとき使ってみよ~」というふうにおもむろにかごから無料券を取り出し、表と裏を確認するように見て、そのままどんぶりのそばに置くという猿芝居を敢行
そのまま今日、替え玉注文しちゃうもんね作戦を試みることにした。
ただ、この「無料替え玉券」をどのタイミングで出すのかがわからない。
やっぱり替え玉を注文するときかな?それとも最後の清算のときかな?
とにかくまずは麺を全てすすり、
「すみませ~ん!替え玉ください」と注文した。
すると、隣りの青年もすぐさま「こっちも替え玉!」と注文。
な、なにぃ?貴様、オレに便乗しおって!
「こっちも」の「も」は何だ!「も」は!
いつから仲間になったんだ!
そして僕は隣りの青年がまだ麺を半分くらいしか食べていないのを発見。
「き、君ィ!まだ替え玉頼むの早いだろう!」と思いつつ、
「これだから素人は・・・・これだから小心者は・・・・これだから食いしん坊は・・・。なんたって、ベテランの僕が注文するのに便乗しないと注文できないんだから!」
そう天狗になって、スープをすすりながら替え玉の到着を待った。
が、スープを飲みながら替え玉を待てば、当然、スープは減ってしまう。
だからあまりスープに手を出してはいけない。
う~む、どうしようか・・・・
手持ち無沙汰だ・・・・
隣りの青年はそうしている間にも麺を旨そうに吸い上げ、固い麺を咀嚼している。
そして全ての麺を平らげたとき、ぼくらの替え玉が到着したのである。
そう・・・替え玉は一杯目の麺を全部食べ終わる前に注文するのがベストタイミングなのだった。
「ま、負けた・・・」
僕は少し、シュンとなって、2玉目の麺をすすり上げた。
スープが少しぬるくなってるし、それで麺が1玉目より固いままだし・・・・僕って思いっきり素人じゃん。
それにしてもスープうめぇ・・・・
濃厚な豚骨スープで僕の口はテカテカ。
僕は手の甲でそれをぬぐいつつ、またもやスープを口に入れ続ける。
僕がレンゲで最後の1滴まで頑張って掬おうと悪戦苦闘していると、隣りの青年はスープを半分残したまま立ち上がった。
そしてテーブルの下からスマートにティッシュを抜き取り、口の周りをぬぐい、「ブレスケア」をお冷で流し込み、500円玉を置いて去っていった・・・・。
全てが堂に入った、ベテランさんの所作であった・・・・・。
僕は彼が去った後、机の下のティッシュを見つけ、それで口をぬぐい、お冷で口をぐちゅぐちゅして歯の間のきくらげ、チャーシュー、ゴマをマウスウォッシュ!
そして立ち上がった。
店員のおねえちゃんは、僕のどんぶりの近くに置いてあった「替え玉無料券」を無言でかごに戻し、
「500円です」と言った・・・。
無料券、必要ないじゃん・・・・・・
生粋の湘南ボーイである僕には、博多ラーメン道は険しかった・・・・・・
でも・・・・また来ようっと!!