ある日、無性にプリンが食べたくなり、思わず近くのファミリーマートに走って、上にクリームがのっかかっているタイプのプリンを買った。
そして家で件のプリンを食べてみると、確かにうまい。
プリンなんて久しぶりだったが、うまい。クリームがまた絶妙なのだ。
確か僕が小さい頃よく食べたのは、”プッチン・プリン”というやつで、容器の下のところにツメがあって、それを折るとお皿にすとん、と落ちるやつだったな~。懐かしいな~。あれやりたいな~。
ない。
ツメがない。
つまりこのプリンはお皿にあけて食べるのではなく、容器をほじくって食べるもの、ということになる。
ちゃんとしたレストランで、プリン・アラモードを注文すれば、確かにそうなっている。
プリン・アラモードなら、カラメルの上に生クリームがのっている。
そう、カラメルソースがかかっている方がプリンの頭、反対側がプリンのおしりなのだ。
横から見ると台形の形で、面積の広いほうが下になる。
そして富士山の雪のように、上部を覆う、苦甘のカラメルソース。
形状的にも、視覚的にも、カラメルソースの方が上であることは疑いようがない。
「ポリバケツに頭を突っ込んだような状態」
プリンを形容するなら、そんな感じだ。
でもプリンは何も言わず、待っている。いつかお皿にあけられる日を待っている。
それにもかかわらず、人間はクリームを乗せてしまった。
ポリバケツに頭を突っ込んだ状態であるプリンのおしりにクリームをかけてしまった。
カラメルソースがかかっているところから食べてほしがっているはずである。
するとカラメルソースの雪崩が起こる。削りとった部分に、カラメルソースが流れおち、最後までカラメルソースを絡めながら食べることができる。
それなのに昨今のコンビニ・プリンは、カラメルソース抜きで前半を食べ、後半のみカラメルソースを”仕方なく”といった形で食べている。
これはカラメルソースにしたら、浮気をされたようなものだ。
カラメルソースがかわいそうではないか。
友人であるコーヒーゼリーの話
「ま、僕もプリンの気持ちはわからないではないですけどね。ただ僕の場合、最初から頭が決まっているわけではないですからね。プッチンもないし。クリームも後がけなので、クリームがかかったほうが頭、という感じですから。でもプリンの気持ちもわからないではないです。」
おなじくフルーツゼリーの話
「あたしもよくプリンの愚痴を聞きますけど、それでもプリンは幸せだと思います。あたしにはクリームをかけてくれる人もいないし。フルーツがあるところはかわいがってくれますけど、フルーツがない寒天だけのところはかなり乱暴に食べられてます。中にはフルーツだけとられて、全部食べていかないお客さんもいます。なんかおなかの子どもを奪われた心境です。」
同じく杏仁豆腐の話
「わたしらなんか、味の変化なんてなにもありませんよ。最初から最後まで同じ味。ま、それでもおかげさまで最近は人気が出てきました。セブン・イレブンあたりではかなり大き目の容器に入れさせてもらっています。プリンさんですか?ま、いろいろあると思いますが、がんばってください。」
以前、プリンと同じスーパーの袋に入っていたことがある4個パックのヨーグルトの話
A「あれは、10年前でしたかしら?私、プリンさんと一緒に買われて袋をご一緒させていただいたことがあるんですよ。あの時のお客さんはとんでもない砂利道を自転車で走るものだから私たちも大変でね。急に飛び上がったり、ネギに頭ぶつけたり。そのうち、プリンさんのお宅でなにやら喧嘩が始まったんですよ。原因はわかりませんけど、とにかく大喧嘩。もみくちゃになって。家に帰ってから大家さんに叱られてましたよ。」
B「いや、姉さん、喧嘩するほど仲がいいって言うじゃないか。あのうちの子どもは確かプリンを思い切り振ってぐちゃぐちゃにしてから食べるくせがあるから、喧嘩してもしなくても一緒だよ。」
C「そうそう。それにあたし、前にプリンさんがストローで食べられるの見たわ。ふたも開けないでストローで吸われちゃって。あたしたちカップデザートはスプーンですくわれてこそ救われるものなのに、ストローで吸われるなんてねえ。」
D「俺は別にどう食べられようと構わないな。別に関心ないし。ただできれば女性に食べられたいな。変な一人暮らしのおっさんに買われて、頭がどうとか、おしりがどうとか、変に詮索されるのだけは勘弁して欲しいよ。」
だとさ。