週も真ん中水曜日
というわけで(?)、僕は毎週水曜日はとある社員食堂でお昼ご飯を食べるのが常となっている。
そこはカツカレーが500円で食べられるのも魅力であるが、だいたい僕が注文するのはA定食500円である。
同僚がB定食580円を注文するのを尻目に、「俺、エビフライよりささみフライの方が好きなんだもんね。ヘルシーなんだもんね。」といつも強がりを言うのが水曜日の定番となっている。
A定食には日替わりの皿(肉か魚)、小鉢、ご飯、味噌汁、漬け物がついてくるのだが、正直あと一つ何か物足りない。
B定食は日替わりの皿が「エビフライとハンバーグ」とか「天ぷらと揚げ出し豆腐」とか、2品ぐらいは並ぶので堂々とご飯と渡り合えるのに対し、A定食は「いわしのフライと千切りキャベツ」「野菜炒め」といったシンプルさ。
僕は定食はおかずが多くないと嫌なのである。
なんだったら野菜炒めも「モヤシ炒め」と「キャベツ炒め」に分けてほしいくらいなのである。
だからいつも「あ~あ。これに味付けのり一袋あるだけで昼飯が豊かになるのに・・・」と悔やみながらの昼飯を食っていたのである。
そんなとある水曜日
僕がいつものように社員食堂の列に並んでいると、僕の直前の二人組の男が、僕の目を疑うような行動をとったのである。
一人はカツカレーを注文。
それこそ、カレーの中に入っている具をはるかにしのぐ量である。
が、そいつはカレーを注文していたので、量は非常識にしろ、まあ納得できる。
問題はもう一人である。
そいつは俺と同じA定食を注文したにも関わらず、漬け物の小皿の上に、紅ショウガと福神漬けを盛りつけ始めたのである。
白飯(しろめし)に紅ショウガって・・・
僕はそいつのことを十分に軽蔑を込めた視線で見つつ、自分の番が来たときに何事もなかったのように福神漬けを取り始めた。
「俺は悪くない悪くない・・・・」
そして一人テーブル席に座り、しげしげとA定食を眺めた。
今日の日替わりは「ピーマン肉詰めフライ2個と千切りキャベツ」
意外に白飯(しろめし)が進まないおかずである。
いつもなら大量のソースを振りかけなければしのげないパターンであるが、今日は漬け物の小皿が充実していた。
緑の柴漬けの隣に鎮座する福神漬け。
僕はおもむろに福神漬けを白飯の上に乗せてみた。
こうして福神漬けというのを改めて見てみると、なかなか複雑怪奇な構成をしている。
通常の漬け物はキュウリだけ、大根だけというパターンが多いのだが、福神漬けは大根、鉈豆、レンコン、紫蘇の葉、白ごまなど7種類の野菜類が細かく刻まれている。
福神漬けってカレーにしか使えない、使い勝手の悪いやつだと思っていたが、なんか、結構、すごい奴なのかもしれない。
されば一口・・・・・
モグモグ・・・・
白飯の甘み・・・・・酸っ・・・・コリっ・・・!!
「あっ・・・・この酸味・・・・材料の違いによる歯ごたえの変化・・・・結構・・・・好きかもしれない・・・」
バカな・・・・これは僕が知っている福神漬けでないぞ?
僕が認識している福神漬けって、ちょっと甘ずっぱいカレー味で、歯ごたえのないカレーの具の中で、かすかなコリコリ感を足すためだけに使う”歯ごたえ業”専門の職人だったはず。
それなのに白飯の上にいる福神漬けは、まるで別人!
まるでSPEED時代は歌も歌えないただのバックダンサーだったのにソロで取り出してみたらモデル級の沖縄美人だった、みたいな感じ
いやはや白飯が進む進む
なんか生まれて初めて金松梅(高級ふりかけ)を食べた時のような感動
おかずいらないぢゃん!!
いろいろな野菜が入っていること、店が上野不忍池の弁財天近くにあったこと、「ご飯のお供にこれさえあればほかにおかずはいらず、食費が抑えられ、金が貯まり、家に七福神が来たような幸福感」との解釈で名付けられたとの説が。
なるほど!そんな偉い方だったのか!!
それが今はカレーごときのお供にとどまっていたとは!
ご隠居様ぁぁぁ!!
僕は一心不乱に福神漬けでご飯をほおばり続け、箸休めにピーマン肉詰めをかじった。
この甘酸っぱさは独特だわ。
発酵型の漬け物とは違う、結構ポップな甘酸っぱさ。
なんか、さっぱりして漬け物の中でも群を抜いてさわやか!
味付けは醤油、砂糖、みりんのはずなのに、まろやかなお酢っぽい味がする。
そして大根とレンコンでかなり歯ごたえが違って面白い!
うまいがな、うまいがな。
なぜ日本人はこの才能をいつまでも埋もれさせておくのだろう?
以来、僕は毎週水曜日はA定食に大量の福神漬けをとることを常としている。
本物は本物を知る。
福神漬けよ。僕はちゃんとあなたの本当の才能を知っている。