先日、テレビの深夜番組で、ある便利グッズ(最新家電?)を紹介していた。
それは、エアコンやテレビ、照明などのスイッチを音声で認識して操作する機械である。
使い方はこんな感じだ。
まず手をパンパンパンと3回慣らす。
するとその機械が起動する。
次にその機械に向けて「エアコン」とか「テレビつけて」みたいなことを話しかければエアコンやテレビの電源を入れてくれるのだという。
また、例えばエアコンの温度を上げ下げしたいときも柏手を3回打って「あつい」「さむい」みたいに言えばリモコンを触らなくても操作してくれるし、温度を二度あげたかったら「寒い寒い」と言えばいい。(三度上げたかったら「寒い寒い寒い」か?)
これなら、夜、真っ暗な部屋に帰ってきて電気のスイッチが見つからなくても照明がつけられるし、
ポテトチップを食べながらテレビを見ている時にエアコンをつけたくなっても、いちいち手を洗ったり、手をはたいたりする必要はない。
また、バラバラのリモコンをテーブルの上にいくつも並べる必要もないので、実に便利であるという。

が、この機械を発明した人は、なにか一番大切なことを忘れている気がする。
これをどういう人が利用するか、ということだ。
家に帰って電気もエアコンもついていないんだから、やはり一人暮らしの人ということになろう。
で、問題は一人暮らしの人が家でどんな気持ちで過ごしているかということだ。
少なくとも、独身時代の僕だったらどんなに経済的な余裕があろうともこの機械を買おうとは思わなかっただろう。
というのは、当時、僕がなにが面倒臭かったかと言うと、とにかくしゃべることが面倒臭かったからだ。
職場では愛想よくしていた僕でも、家に帰るとほとんど声帯を震わせなかった。
週末コンビニに行って「お弁当温めますか?」「お箸は一膳でよろしいですか?」なんて聞かれたても「うー」とか「えー」とか言うだけで、まともにしゃべろうともしなかった。
そんな僕であったから、たとえ相手が機械とはいえ話しかけるなんて考えられない。。
疲れて家に帰ってきて、発する言葉は「疲れた・・・」だけで十分なのである。
結局「わざわざ手を伸ばしてリモコンを取りボタンを押す」のと「機械に”テレビ”と話しかける」のと、どちらか一つ選べと言われたら、僕は迷わず黙ってリモコンを操作する方を取るだろう。
コミュニケーションが苦手な男というものはそういうものなのだ。
なにが悲しくて機械にお願いしなければならないのか?

そして何事もマイナスに考える僕は、「もし自分の発音で機械が動かなかったら・・・」なんてことまで考えてしまう。
A「”てれび、つけろ?”あれ?動かね。やっぱりここは”てれびじょん”ていったほうがよかんべか?」
B「おめ、あれでねか?偉そうに頼むから機械が怒ってんじゃねーべか?」
A「そうけ?なら”てれび、つけてけろ!”あら?やっぱりだめだ。」
B「もうちょっと丁寧に入ってみたらどうだ?」
A「”あの~申し訳ねーんだけんども、ちょっくらテレビをつけてもらうわけにはいかねーべかと思う今日このごろなんだけんども?”」なんて・・・。
ま、いかにもコントだわな・・・

とにかく最近、こんな音声認識機能が増えている。
「代官山、美術館」とか「五反田、ヘルス」とか言うと勝手に検索してくれるらしい。
もしかしたら携帯のメールも音声で「今、どこ?」とか「今、 吉原」なんて吹き込めば文字に直してくれるかもしれない。
が、ここでも僕は絶対に利用しないと思う。
そもそもスマホに「今、どこ?」なんて話しかけるくらいなら、直接相手に電話で聞いた方が早いし、
さっきも言ったように、機械ごときに話しかけるのがなんとも屈辱なのだ。
きっとまだ音声変換もそれほど発達していないので、きれいに丁寧に発音しないといけないだろう。
ぜんぜん気楽じゃない。
スマホに検索してもらったり文章を打ってもらったりするために、わざわざ咳払いをして、きれいな発音ではっきりと話さなきゃならないって・・・いったいそれのどこが便利なんだろう?
それなら僕は黙って指でキーを押すな。
そもそも音声で認識させるってことは、周りに知られてしまうおそれもあると言うことだ。
周りに人がたくさんいるのに「今日の待ち合わせ、何時だっけ?」なんて一人でしゃべってたら怪しまれないか?
それとも、わざわざ人に見えないようにビルの陰に隠れて、刑事ドラマみたいに小声で「ススキノで一番安いソープ教えて」なんてスマホにささやくのだろうか?
また、音声認識の精度が上がってしまって、音を勝手に拾ってしまったらどうなるのだろう?
ホテルで「コンドーム、コンドーム・・・」とポケットをまさぐっていたらスマホから「ホテルヲ出テ、200メートル先ニ薬局ガアリマス」なんて聞こえたりして。
で、40分後、女の子がベットの上で「イク!イク!」なんてあえいでいたら枕元のスマホからまた「行キ先ヲ言ッテクダサイ」なんて訊かれたりして・・・。
ま、そこまでいくと意外に便利かもしれない・・・
