それはいけ好かないカップルだった。
特に男の方がいけ好かなかった。
日曜日の快速新宿行き。
車内は立っている乗客も多かったが、隣の人に触れるほどではなかった。にもかかわらず、カップルの距離は近かった。
しかも、俺との距離も近かった。
なぜか、カップルは向かい合わせに立っていた。女の方は背中を向けて立っていたのでよく見えなかったが、男の顔はたいしたことはなかった。
ごく平凡な、パッとしないにきび面だった。
しかし、男はオシャレには関心が高いようだ。
お洒落な帽子、お洒落なメガネ、金のネックレスに黒いタンクトップ、白い綿のシャツを腰に巻いて、穴あきジーンズとロンドンブーツで足元を引き締めていた。
向かいの彼女はセンスのいい彼氏にうっとりの御様子。
そんな彼氏は両手で吊り革を持ち、捕まった宇宙人のようなしせいで「俺ってカッコ良くない?」という視線を投げ掛ける。
うんうん、カッコイイカッコイイ。
うんざりしながら見ていると、一瞬、俺の鼻を嗅ぎ覚えのある匂いが通り抜けた。
この匂いは間違いなく脇汗の匂い。そして匂いの強さから発信源は俺の半径1m以内にいる。あの男だ。女の前で両脇をあけて立つあの男。
脇の匂いは断続的に放たれるため、油断をすると鼻の奥にツンとくる。
き、きつい!!!
ゲボ出そう……
つーか、目の前に立ってる彼女はなんで平気でいられるんだ???
愛は盲目
というか
愛は鼻詰まりだな。