さっき、トイレでものすごいポーズを見た。
ネクタイをだらしなく緩め、スーツのボタンも全開のその男は一見するとトイレの壁をよじ登ろうとしているようだった。
しかし、男の足は地面にちゃんとついているし、何よりも下半身はしっかりと小便器にロック・オンされていた。
その男は左手に外したメガネを持ち、壁にもたれ掛かるようにして左腕で体重を支えていた。
そして小便器の上に右肘をついて、右手で携帯電話を操作しているのだ。
なんという斬新なスタイルだろう。
俺なんか小便をする時は息子が粗相をしないように、一秒たりとも監視を怠らないし、右手はパンツのゴムをしっかり下ろして固定、左手は反抗期の息子を抑えつけるのに精一杯なのに、
その男は自分の息子のことなど放ったらかしなのである。
己の息子のことより、メガネと携帯メールの方が大事だと言わんばかりのそのスタイルは、子供を決して甘やかさないという気概に満ちあふれていた。
俺は感動した。
そして、その男を真の男だと思った。
男は何事もなかったかのようにメガネをかけ直し、携帯とチンポをしまい、トイレを去って行った。
男のスーツは小便の激しい跳ね返りでドット柄みたいだった。