それは
正直、これまでこのテの番組はあまり好きではなかった。
芸能人の悩みを、一癖も二癖もありそうなオバさん達が聞き、辛口のコメントを残す。
これまでゴールデンタイムのバラエティで何度も繰り返されてきた光景だ。
これらの番組の特徴は、デリカシーのないおばさん・おネェ連中がづけづけと痛いところを突くところにある。
人の悩みや不幸に対し、一切の同情を見せず、厳しさ一辺倒で説教をする。
それがゴールデンタイムの視聴者のほとんどを占めるF1層(20~34歳の女性)と、F2層(35~49歳)にとっては痛快なのである。
人の不幸話が大好物な視聴者のおばちゃんたちは、若い女や芸能人が悩んでいることだけでも嬉しいし、
その若娘にきつく当る自分より下品なおばちゃんを見つけて、蔑むことがまた楽しい。
自分の心の声を、より下品に体現してくれるテレビの中の姑たちが大好きなのである。
傲慢で勝手な意見を放つ姑の、浅はかなアドバイスがまたいいね。
見下せちゃう感じがすごく快感なのである。テレビの前のおばちゃんには。
そこへ来て『解決!ナイナイアンサー』である。
ナインティ・ナインの岡村が「この人、絶対悩みを持っている!」と決めた芸能人をゲストに呼ぶ。
そしてその芸能人の悩みを聞きだし、スタジオに集めた相談員に解決策(アンサー)を出してもらう。
スタジオに集められたのはこれまた癖のある相談員たちが20~30人。
例えば”広告業界のビッグママ”飯野晴子(69)
”ホストクラブ界の革命児”井上敬一(37)
”ラジオ人生相談の名物相談員”今井通子(71)
”ヤンキー界の重鎮”岩橋健一郎(46)
”1日1食の若返りドクター”南雲吉則(57)
”103Kgの恋愛カウンセラー”羽林由鶴(47)
”お騒がせ12歳はるかぜちゃん”春名風花(12)
”性転換した大学講師”吉井奈々(31)
まあ、よくもこれだけクセのある人たちを集めて来たものである。
この人たちは期待に応えて、それはそれは厳しい指摘をするのである。
芸能人一人に対して20~30人の相談員がそれぞれ「救いようがない!」「出家しろ!」などと厳しい意見を集中砲火させるのである。
もう公開処刑に近い。
ちなみにこの番組が始まる前から、石橋氏や南雲氏、羽林氏などはメディアに何度も取り上げられていたし、著書も話題になっていたので、番組制作型としてはこれらの人たちを中心に厳しい指摘で悩める芸能人に喝を与え、番組を盛り上げるはずだった。
が、今は彼らはただの前座に過ぎない。
この男の前では。
名だたる著名な相談員を前座に追いやった男。
その男が最初に述べた”性格のリフォームの匠”心屋仁之助なのである。
この男がすごい!
悩める芸能人の心の闇を一瞬で見抜き、そしてその芸能人の心の叫びをくみ取る。
その言葉を本人に言わせることで自分に正直になり、心のリフォームを行うのである。
一番印象的だったのは女性芸人・北陽の虻川の相談を受けたとき。
虻川の悩みは「夫が愛情を示してくれない」「夫に甘えられない」「夫の望みどおりの女性になれない」とのことだった。
「子供のころから女の子扱いされていなかったのではないか?」
「強くありたいと、自分に言い聞かせてこなかったか?」
そして虻川に「この言葉、言えます?」と言って投げかけた言葉を、虻川は口に出すことができないのである。その言葉は
虻川はなぜかこの言葉を口に出すことが出来ず、泣き出してしまうのである。
とても不思議な光景だった。
なぜこんな簡単な言葉が言えないのか?
それはつまり、虻川の中にいる子供の頃の自分が今でも女の子になることを拒んでいる証拠であった。
心屋仁之助のそのあまりに見事な洞察力に、スタジオに集まった人たちはもちろん、テレビを見ていた僕もあっけに取られてしまうのである。
それが偶然でなく、毎週行われるのである。
心屋の”魔法の言葉”は今や番組名物。
毎回毎回、相談者の心を、それはそれは見事に突くのである。
こうなると心屋のアドバイスは番組のクライマックス。
数ある相談員の中で、ちゃかし担当のおネェ相談員やスケベイタリア人を前座に使い
ベテラン相談員を中継ぎに使う。この時点でもかなりいいアドバイスが出ているのだが
最後を締めるのは心屋だ。
最後は出演者も視聴者も「心屋先生の名裁きを見たい!」という気持ちになっているのだ。
正直、他の20~30人は時間稼ぎ。
いてもいなくてもそんなに影響はない。
先日は相談者一人(山村紅葉)と心屋がマンツーマンで相談をしていたが、番組は十分成り立っていた。
バラエティ番組はえてしてこういうことがよくある。
一人の名物キャラクターを発掘し、その人気で番組が続いていく。
『解決!ナイナイアンサー』は、世に埋もれていた心屋仁之助を発掘した。
それだけでこの番組は大成功。
水戸黄門様が印籠を持って旅を始めたようなもんだ。