中京テレビ制作の『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』を見ていて思う。
やっぱり僕はこのテの店は苦手だ・・・。
”オモてなしすぎて、オモしろい、うまい店”を紹介するこの番組、最初は単に安くて量が多い店を紹介するだけの番組だと思っていたが、この番組の面白さは何といっても”クセの強い店主”である。
茨城県日立市の中華料理屋『珉珉』の鈴子ママは会計時の端数をおまけしてくれるのだが、それを断ろうとすると「いいから!騒ぐんじゃねーよ。」「ふざけんじゃねーよ!しまえ!早く!」とドスをきかせて頑として小銭を受け取らない。口は悪いが気前がいい。言葉は汚いがどこまでも優しい。もはや番組名物ママだ。
また同じく茨城県つくば市の喫茶店『クラレット』のママは言葉遣いに滅法厳しい。撮影に来た女性ディレクターが「うまい」なんて言おうものなら「いい大人が”うまい”なんて言葉を使っちゃダメ!ちゃんと”おいしいです”って言わないと恥ずかしいよ」と即座に叱る。一方で常連客である筑波大学の学生には滅法優しく、大会が近い運動部の学生には「のど飴でも買え」とお金を渡してしまう。
*ちなみに私も学生時代何度か行ったことがあるのだが、おじさん、おばさんに厳しいイメージは全然なかったな。
こうした名物店主・おかみには共通点がある。
・妙齢(じじいorばばあ)
・口が悪い、時にけんか腰
・とにかく食べさせたい、おごりたい、ごちそうしたい
・客が満足しているかどうか心配→メニューにないものをどんどんおまけする
・採算度外視、儲けなしか赤字(を年金や食材寄付で補填)
・ほとんど休まない
・量の概念が狂っている
・客を親戚扱い
・最初は怖いが付き合ってみると気が良くて世話好き
一番やっかいなのは最後の「最初は怖い」が「実は気が良くて世話好き」ということ。
中京テレビのディレクターは普段取材を受けないような店でも飛び込みで取材交渉。最初は「うちは見せられるようなもんはないよ」と断られても何度も通い頼み込む。そのうち店主と仲良くなり「車で送ってやる」という流れになり、取材OKをもらうようになる。
取材をしてみると例の口の悪さが爆発。「”うまそう”じゃねえんだよ。うまいんだよ!」「『じゃあアジでいい』だと?”じゃあ”って言われるほど不味いもんは出してねぇんだよウチは。なんだ”じゃあ”って。バカ野郎」
しかしさらに密着取材をするうちに店を手伝わされるようになり、数日間の密着取材が終わる頃には店主から「寂しいな。結婚式の披露宴に呼べよ」なんて声をかけられる。
放送日にはまた店に向かい、店主と一緒に放送を見る。その頃にはすっかり親分・子分の関係ができていて「こいつが撮ってくれたんだよ!いい男に映ってんべ!」「〇〇ちゃん、ありがとね。これでみんなにジュースでも買ってやんな。あ?騒ぐんじゃねーよ。受け取れ、いいから!」
これぞ「ヒューマンドキュメンタリー」の真骨頂であり、製作費はないが時間はある地方局ならではの番組作りである。
本当に見ている分には心が温まる名シーンの連続。
が、小心者の僕はこれができない。
「ばかやろう!」なんて言われたら「ひっ!」と悲鳴を上げて二度と近づかないだろう。心の傷は何年も残り、寝ていても店主の顔が浮かんでノイローゼとなり、トラウマになるだろう。
中京テレビの若いディレクターさんは本当に大したものである。アラフィフの僕よりもずっと怒られ慣れていないであろう世代の若い人が、飛び込みで強面(こわもて)の店主に取材交渉したり、怒鳴られたり、店を手伝ったりするのだから。そりゃあ頑固者の店主だって心を開くわ。
テレビ制作が仕事とはいえ、こういう試練を乗り越えて面白い番組を作る若い人がまだいることを生粋のテレビ好きとして嬉しく思う。
きっとこの手の店は令和には受け入れられない。個人店とはいえ客に乱暴な言葉を使おうものならSNSで叩かれて終わりだし、そもそも若い人が寄り付かない。番組放送後しばらくは冷やかしで客が集まるが、大繁盛店として何年も客足が途絶えないなんてことにはならない。
が、この番組に出てくる店は初めから儲けようという気もないし、常連客で成り立っている。そもそもネットを見ていないから何を書かれても気にしない。こんな店はもう新たには生まれないだろう。この番組は日本遺産のアーカイブだ。
最後に、この番組を見てわざわざ店主に怒られにいく視聴者が結構いるというのだから驚きだ。
「ばかやろう」を喰らいに行き、わざと怒らせたりするらしい。
まあSNSのネタ探しか冷やかしなんだろうけど。
ドMなんだかドSなんだか・・・