俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

スカイミラーならず

”マレーシアのウユニ塩湖”こと、スカイミラーに行ってきた。

そして写真を撮れずに帰ってきた。

ネット上には「一生の思い出になる素敵な写真が撮れた!」という成功体験しか書いていないので、「こんなケースもある」と知ってもらうべく書き記しておきたい。

Sky Mirror Tour & Travel Malaysia | Official Website

 

僕は今、仕事でマレーシアに住んでいるのだが以前から行ってみたかった場所があった。それがSky Mirrorだ。ネットで調べてみると本当にウユニ塩湖のように水面にきれいに反射した写真が撮れていて幻想的。これは行ってみねばと早速ネットで予約をしてみたのだ。お値段は家族3人でRM340(1万円ちょっと)。これにボート代、写真代(撮影もしてくれる)、保険、スナック&お水がつくという。

 

ネットによると”映える”写真を撮りたければ赤、黄色、オレンジなどの原色の派手派手な服を着ていくといいらしい。奥さんは花柄のワンピース、8歳の息子は赤いウルトラマンのTシャツを着るというので「そんなんじゃ映えないよ!もっと派手に行こうよ」とショッピングモールに直行。「せっかくなら普段も着られるものを・・・」と服を選ぶ妻に対し「そんな考えは捨てろ!撮影のための衣装と割り切ったほうがいい!」と一喝。普段灰色・黒・白の服しか来ていない僕はなぜかこのスカイミラー体験に一人盛り上がり、奮発して目が痛くなるような真っオレンジの服と真っ赤なスポーツパンツを購入(RM80出費)。奥さんと息子は「やっぱり持っている花柄のでいい」と冷めた目で見るのであった。

 とはいえ当日はちょっとした小旅行気分で家族はウキウキ。朝は小雨交じりだったが天気は次第に良くなってきた。息子はシンウルトラマンと怪獣のソフビと写真を撮るのだと張り切り、妻も旅行先でしか着られない派手目のワンピースに気分が上がっている。そして僕も愛車のMyviのカーステレオから流れるサザンオールスターズのベストアルバムに気分上々↑、自宅から1時間ちょっとのドライブは快適そのものだった。

Perodua Myvi 1.5 AV tested - we find out why this model is still the  bestseller in Malaysia - News and reviews on Malaysian cars, motorcycles  and automotive lifestyle

12:00 

スカイミラーへのボート乗り場に到着。この辺りは猿だらけの公園、植物園、ちょっとした動物園などがある観光地でお土産物屋やカフェ、ローカルレストランも多い。僕らが行ったときは13:30出発(時期により潮の満ち引きの時間が異なり、出発時刻が変わる)だったのでまだ時間がある。近くのカフェで昼食をとることにした。日本語がべらぼうに上手いマレー系の定員さんがいてびっくりした。お隣の土産物屋でもカラフルなスカーフやシャツが売っていたのでここで衣装を揃えても良かったかもしれない。

Auntie Foo Cafe | Facebook

13:30

この日は平日だったため、参加者は僕ら家族(3人)とマレー人グループ(12人)のみ。ただボートの出発が遅れているようで、みな手持無沙汰にしている。息子は干潟の小さいカニやハゼに興味津々。暇つぶしに息子とずっとカニを見ているとマレーシア人グループの女性がアイスを買ってくれた。この時が楽しさのピークであったことを後で知るのである。

14:15

45分遅れで出発。15人が2つのボートに分かれて乗る。僕ら家族はマレー人グループの5人と一緒のボートだ。

ボートは最初、河口を高速で進む。海風が爽快だなぁと思ったのもつかの間、海に出ると事態は一変した。波の上を相変わらず高速で進むボートは上下に激しくバウンドし、容赦なく尻を叩きつける。またバケツの水をぶっかけられたかのような潮しぶきが遠慮なくかかってくる。「あれ?俺の思っていたのと違う。優雅に潮風に吹かれながらスマホで家族写真とかを撮って進み「あ、日焼け止めを塗り直さなきゃ」なんて会話をしながら行くもんだと思っていた。でも実際は嵐の中の奴隷船。前方からの潮しぶきで目をやられ、全員背中を向け、縮こまりながらボートにしがみついている。服はパンツの中までビショビショ。スマホなんて取り出す余裕もなく、会話もできない。とにかくボートから投げ出されないようにするのに精いっぱい。というか、こんなにスピード出さなきゃ海水を浴びることも上下にバウンドすることもないんじゃない?ボートの操縦士は普通にジーンズを履いてたからそんなに濡れないのかと思いきや、操縦士もビショビショなのである。30分は本当に地獄だった。知らない人が見たら「泳いで行ったの?」と言われるくらいビショビショで妻の髪型もひどいもんだった。「あれ?なんでブログとかでだれも教えてくれないの?服の下は水着がいいとか、貴重品はビニールに入れとけ」とか「子供は危険」とか。「ちょっと濡れる・揺れる」というレベルじゃないぞ。うちの子、妻にしがみついたまま地蔵のように固まってるぞ・・・。

*イメージ

そして30分後、ボートのスピードが緩やかになり、顔を上げるとなんと海の真ん中に人が立っていた。それはそれは奇妙な光景だった。本当に海のど真ん中に人が立っているのだ。よくこんなところを発見したな・・・。しかも毎日海に沈んでしまい、日によって潮が引く時間も変わるのによくこの場所がわかるな。ただイメージでは海面から少し砂浜が浮き出ているイメージだったのだが、どうも違うようだ。

そしてそのまま降りることもなく、その場でボートに揺れること数分。ガイドから衝撃の言葉が。

「今日は波が高いので危険です。引き返します。」

マ、マジっすか??確かになんかおかしいなと思ったんだけど・・・。

そして地獄の奴隷船・復路。

息子はボートの床に座って妻の足にしがみついたまままた固くなった。そういえばネット上の写真でも子供はあまり映っていなかったような・・・ここに8歳の子どもを連れてきたのは虐待になってしまうのか?しかし後悔しても仕方がない。息子が放り出されないように家族3人でうずくまってひたすら耐える。その間も海の水がざぶざぶ降りかかる。潮が目に染みて痛いし日焼けも痛い。一緒に乗っているマレー人グループも無言で奴隷船に耐えている。

そしてやっとこさ船着き場に到着。みんなヘロヘロだった。窓口で「2つの選択肢があります。日を改めてツアーに参加するか、返金を希望するかです」と言われたが嫁と息子は「リベンジはしない」と即決。我が家がスカイミラーで写真を撮ることはなくなった。ボートは出てしまったので返金は半額のRM170。まあ仕方がない。船着き場のトイレにシャワーが付いていたのでシャワーを浴びて着替え帰ろうとすると、一緒にボートに乗っていたマレー人グループのリーダーが「特別なボート体験だったな!」と声をかけてきた。本当にその通りで。

The beautiful colours of nature. These are cute little fiddler crabs  something you can spot at various mangroves around Malay… | Nature tour,  Langkawi, Fiddler crab

その夜、ベッドの中で息子が「すごい冒険だったね」と妻に言ってきたので「でも泣かなかったね。偉かったね」と褒めると息子はこう言った。

うん、泣かなかったよ。だって3回くらい気絶してたからね。

すまぬ、息子よ。