その日、俺は無性におでんが食べたかった。
おでんで一杯やりたかった。
おでんとビールは意外に合う。
冷たいビールで喉を冷やすと、口の中に少し苦味が残る。
そこへおでんの汁を入れるとまことに”イイ感じ”になる。
そう、おでんは具もそうだが、汁がビールに合う。
今日は飯はいらない。
おでんとビールで眠りたかった。
ちなみに俺の言う”おでん”は「コンビニのおでん」のことだ。
だっておでん屋なんて入ったことないし、
なによりもお財布のほうが心配。
コンビニおでんなら、味もいいし、値段もお手ごろ。
”おうちビール”というのも、お酒が弱い俺にとってはリラックスできる条件の一つでもある。
そんな金曜日の夜。
仕事が終わると俺はいつものように演劇のサークルの練習に向かう。
しかし今日は正直、練習にも身が入らず、頭の中は”おでんとビール”でいっぱいだった。
ああ、がんも・・・
ああ、鰯つみれ・・・
ああ、牛すじ串・・・
そして2時間半の練習が終わる。
いつもならここで「さあ!飲みに行こう!」とお誘いがかかる。
これはこれで楽しいのだが、今日だけはうちでおでんが食べたい。
しかしそんな理由が言えるはずもなく
「すみません、明日、朝早いので今日はちょっと・・・」とごまかす。
「明日?明日土曜だろ?お前、仕事休みじゃん?」
ま、まずい、バレてる・・・。
「あ、あの、ちょっと明日は特別な用で・・・」
「なになに?デート」
そうだったらいいんだけど・・・
「お前ね、付き合い悪いと友達できないよ」
いや、今までは皆勤賞で飲んでたでしょう?
「お前、友達作るために演劇習い始めたって言ってただろ?」
た、確かに・・・
俺は自分を変えるために、人見知りの性格を変えるために、そして異業種の新しい友達を作るために演劇を始めたのだ。
今まで、自分の殻に閉じこもって、友達も作らず一人の世界を満喫していたが、それではいけないと思ってサークルに入ったのだ。
そして財布の心配をしつつも、これも授業料だとこれまで毎週、飲み会に参加していたのだ。
しかし・・・飲み会に参加すると2000~3000円はかかる・・・
コンビニおでんなら、腹いっぱい食べても1000円で足りる・・・
それに飲み会は来週もあるし・・・
結局、俺の口から出た言葉は
「すみません、明日はホント、朝5時起きなんですよ・・・」
こうして俺はまた自分の殻に閉じこもるべく、家路に着いた。
ま、多少、罪悪感というか、自己嫌悪がなくもないが
とりあえずこれから至福のおでんタイムだ!
近所のファミリーマートへれっつら・ゴー!!
がんもも鰯つみれも売り切れていた・・・