A「ようヤジさん」
B「おうキタさん」
A「最近、顔を見ねえと思ったら、なにしてたんだい?」
B「おう、実は胃をやられちまってね、この2ヶ月ばかり療養してたんだよ」
A「それは災難だったな。で、棺桶は買ったのかい?」
B「おいおい、縁起でもねえこというねい」
A「へへ。それくらい威勢がよけりゃ大丈夫だ」
B「ふん。まあね。だけど今回ばかりは俺もいろいろ考えたね」
A「なにをさ?」
B「俺が死んでからのことだよ」
A「庭に埋めたらいいじゃないか」
B「俺は金魚か!いやね、葬式だぁ、墓石だぁってのは、金がかかるだろう?」
A「確かにな」
B「俺はおっ母にも子供たちにも迷惑はかけたくねぇからな」
A「なるほど。それで家族がいないところでひっそり死んでいくと」
B「いや、象じゃないんだから。そうでなくて死んだ後の処理よ」
B「火葬だろう?」
A「まあな。でもそんな金すらウチはあるかどうか・・・」
B「半分だけ焼いてもらったらどうだい?」
A「は?どうやって?」
B「ミディアムっていうのか?外見だけ焼いてよ」
A「気持ち悪いよ」
B「だって、おめえさん、魚の炙りが好きだろう?」
A「魚と一緒にするねい!」
B「じゃあ、じっくり焼くしかねぇじゃねえか」
A「いや、じっくりもなにも・・・ちゃんと骨だけにしてもらうよ」
B「ま、土葬は禁止だからな。で、焼いた後はどうすんでい?」
A「そこなんだよ、問題は。俺は次男だからな。親の墓には入れねぇ」
B「お前が先に死ねばいいじゃねぇか」
A「そんな親不孝できるかい!」
B「そりゃそうだ。あ~~、最近、いろんな埋葬方法があるらしいぜ」
A「へ~、どんなんだい?」
B「たとえば、桜葬ってのはどうだい?」
A「桜葬?桜のチップで燻すのかい?」
B「薫製じゃないんだから!バカだね、おまえは。骨壺を地面に植えて、その上に桜の木を植えるのさ!」
A「へ~、風流だな」
B「だろ?毎年、桜の花が咲いてよ、おめぇの魂が木に乗り移るって寸法だ」
A「へ~~、そりゃいいな。でも毎年散るってのも悲しいね」
B「ま、それが無常ってもんだ」
A「あと、おいらは毛虫が嫌いでね。おいらの魂が乗り移った木に毛虫がうじゃうじゃいるかと思うとどうも・・・」
B「なるほど。そりゃあ気持ち悪いな。じゃあ、宇宙葬ってのはどうだい?」
A「宇宙葬?ロケットに乗って散骨するのかい?」
B「そりゃ逆に金がかかる。ま、風船で飛ばすのよ。大気圏で風船が割れて、遺骨が宇宙に散らばるって寸法よ」
A「へ~~、そりゃあロマンがあるな。でもな~」
B「どうしたい?」
A「おいらは高いところが苦手でね。いつまでも高いところをさまようってのは、どうも落ち着かねぇな」
B「なるほどな。じゃ、鳥葬ってのはどうだい?」
A「鳥葬?鳥?」
B「そう。お前さん、焼き鳥好きだろ?」
A「いやまあ、好きだけどさあ。鳥に運ばれるってのは赤ちゃんみたいで恥ずかしくないかい?」
B「そんな上等なもんじゃないさ。鳥につまんでもらうのさ」
A「ひっ!」
B「なあに。死んだ後なんだから痛かねぇよ」
A「いや、俺はくすぐったいのに弱いんだよ」
B「死んでるから関係ねぇだろ!」
A「いやだめ!もうあの細いくちばしで脇の腹をつつかれるかと思うと、我慢できなくって生き返っちゃう!」
B「まったく世話のかかる奴だね。じゃあ海にでも撒くかい?」
A「いやいや、おいらはカナヅチで」
B「棺桶に入れるかい?」
A「無理無理!閉所恐怖症でさ」
B「永代供養墓は?」
A「俺は人見知りだからな・・」
B「フリーズドライなんかもできるぞ」
A「嫌っ!寒いの嫌い!」
B「ミイラにでもしてもらうか?」
A「締め付けられるのもちょっと・・・」
B「最近では高温の液体で溶かすってのも」
A「あっしはぬるい湯に長く浸かるのが好きでね。熱い湯はちょっと・・・」
B「いっそのこと、木につるしておいたらどうだい?」
A「そんなことしたら死んじまうよ!」
B「お前さん、さっきからあれが嫌だ、これが嫌だって・・・いったいどうしたいんだい」
A「死なないのが一番いいんだけどね」
B「当たり前だろ!まったくいまさら・・・。今から墓の心配なんざしてもしょうがねぇだろ」
A「でも今から備えてないと」
B「お前ね、人生は短いんだ。墓石の心配なんてしてないで、もっと時間を有意義なことに使いなよ。」
A「はぁ、人生は はかないね」
B「いい加減にしろ!」