俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

櫻井翔君の炎上事件を確かめてみた。

12月6日放送『news zero』(日本テレビ系)にて、キャスターの櫻井翔さんが真珠湾攻撃に電撃機の搭乗員として参加した吉岡政光氏(103歳)にインタビュー。その際「戦時中ということはもちろんなんですけど」「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は、当時は?」と質問したことに対し、ネット上で賛否両論の声が上がっているという。

僕はネット記事を見て初めてそのことを知って、ネットのコメントも読んだあとに録画してあったその放送を観てみたのだが、僕の中ではセーフ。ま、きっとネットに書き込む人のほとんどは実際の放送を観ずに、切り取られたネットの記事を元にマウントを取ろうとしているんだろうな。もちろん櫻井君の聞き方はベストではないかもしれないけれど、大変な仕事だったと思う。櫻井君、お疲れさん。

櫻井翔さん、真珠湾攻撃に参加した人物に「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は?」と質問⇒大炎上 | 政治知新

僕はアラフィフのおじさんで、父方の祖父は戦死、父も5歳で終戦を迎えている。が、僕自身はもちろん戦争を知らない世代だ。20代の頃は小林よしのりさんの『戦争論』シリーズなんかを読んでいたこともあったが、基本的には難しいことには目を背けたままおじさんになってしまった。数年前にちょっとだけ戦争について復習をせざるを得ないようなこと(下記の記事参照)があったが、普段は戦争には全く興味を示さず、子供にも何も教えられないような平和ボケのおじさんだ。

『永遠の0』ごっこ① - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

『永遠の0』ごっこ② - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

『永遠の0』ごっこ③ - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

『永遠の0』ごっこ④ - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

『永遠の0』ごっこ⑤ - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

 

一方、櫻井君は僕より若いにも関わらず、『news zero』のキャスターになったのをきっかけに「Newsweek」に2万5000字の戦争のレポートを書いたり、パプアニューギニアで遺骨収集に参加したり、今回のように元日本兵にインタビューをしたりと、戦争にがっつり向き合っている。偉いよな。俺なんて自分の祖父母にも戦争のことを聞くのを面倒くさがってたのに。大人になればなるほど、戦争と言うトピックは敏感で難しいテーマだということがわかるだけに、櫻井君の苦労がわかる。櫻井君の訊き方はベストではなかったかもしれなかったが、僕が同僚なら「いや、よくやったよ、あんな難しい仕事。」と労ってあげたい。

news zero』における櫻井君の役割は、”若い人にニュースに関心を持ってもらうこと”、”若い人に伝わる言葉でニュースを伝えること”、”若い人の感覚でニュースに接すること”である。

インタビュー中、吉岡氏の「出撃に参加できて嬉しかった」という発言に素直に「え?嬉しかったんですか?」と反応する櫻井君。また「出撃前に拳銃を一丁ずつ渡された」という発言に「え?どうしてですか?」とこれまたちゃんと確認をする櫻井君。ネット民は「ちょっと考えればわかるだろうが!」と思うかもしれないが、櫻井君はテレビを見ている若い人のために、ちゃんと言葉を引き出さなければならない。

そして問題となった例の質問。「戦時中ということはもちろんなんですけど」「アメリカ兵を殺してしまったという感覚は、当時は?」

当然櫻井君は「戦争当時は人を殺すという感覚はなかった。任務だった。自分がやらなきゃやられてしまうと思った。今思うと当時は感覚が麻痺していた。」というような言葉を期待したのではないかと思う。インタビュー映像を観る限り、決して吉岡氏を責めているわけではないし、軽い気持ちで訊いているわけでもない。訊く方も本当に神経を使うと思う。確かに訊き方はベストではなかったかもしれないけど、僕ならどう訊けるか・・・いや、ムリムリ。そもそも俺にはこの仕事、絶対無理。

吉岡氏は100歳まで戦争の話を一切してこなかったという。それはどうしても当時の仲間や戦死者のことを思い出してしまうからだそうだ。しかし戦争体験が年々語られなくなっている状況を憂い、100歳を超えて自らの戦争体験を語るようになったという。つまり吉岡氏に話を聞くことは、何をどうやっても辛いことを思い出させることになるし、吉岡氏にとって厳しい受け答えになる。それでも吉岡氏は自分の記憶を伝えることが後世のため、戦死した仲間のためにと考えて今もがんばっている。

ちなみにネット上には他の方(ANN News)が吉岡氏にインタビューをしている映像も出ているが、こちらも結構厳しい質問をしている。

「やらなければ」103歳元搭乗員が語る“真珠湾”(2021年12月6日) - YouTube

「Q:戦後、ハワイに行ったことがあるか。」「吉岡:一回もない。何回か機会があったが、断った。」「Q:なぜですか。」

この「なぜですか」の言い方が結構きつい。「なんで行かなかったんだ。なんで戦没者を供養してやらないんだ」と責めているようで怖い。でもインタビュアーに悪気はない。「なぜ」の先の答えが大切だと思ったから思い切って聞いたのだ(それで語気が強くなってしまった)。何をしたかという客観的な事実だけでなく、その時の思い、感情を引き出せなければインタビューとしては失敗。それがその人の傷に塩を塗ることになったり、批判されたりしたとしても。このインタビュアーが櫻井君のように炎上しなかったのは、インタビュアーが櫻井君ほど知名度も好感度も人気もなかったからだ。

なお、櫻井君はインタビューの最後に「若い人たちに伝えたいこと」を聞き、吉岡氏から「戦争は一番人が死ぬ」「絶対にしてはいけない」というメッセージを引き出し、吉岡氏も笑顔でインタビューを終了。櫻井君は櫻井君の仕事を全うしているし、吉岡氏も吉岡氏の使命を全うした。今回の「news zero」でネット上で賛否のコメントがあふれるなら、それはそれで企画として大成功。若い人が吉岡氏の気持ちに寄り添ってくれたなら櫻井君も本望。

 こんな炎上事件があるたびに、僕の頭に流れるのは中島みゆきさんの『ファイト!』

戦う君の歌を 戦わないやつらが笑うだろう ファイト!

悲報】櫻井翔さん、元日本兵の方へのインタビューが酷すぎて批判殺到。 : ヲタクNEWS速報

それにしても吉岡さん、103歳にしてスーツ姿が凛々しく、言葉もはっきり、記憶も鮮明でびっくり。かっこいいっす、パイセン!