俺よ、男前たれ

おもしろきこともなき世をおもしろく

あの子は優しくはない子だ

今年のGWのこと。僕の実家では単身赴任中の僕を除いて一家が勢揃いをしていた。僕はSkypeで日本にいる8歳の息子とビデオ通話をしながら実家の様子を見たのだが、両親、兄貴夫婦、弟夫婦と姪っ子、僕の妻と息子がみな和気あいあいとしていた。するとビデオ通話を切ってから30分後、嫁からこんなLINEが来た。

嫁:さっき、弟嫁さんとお義母さんとおしゃべりしてたら●●(←僕のこと)の話が出てね、弟嫁さんが「●●さんは優しいですね」っていったらお義母さんが「いや、●●は優しくはないの」と答えたの。そしたら××(←息子のこと)が「パパのこと悪く言うな!」って怒ってたよ~w

僕:それは息子に対して優しくないということ?

嫁:ううん。「元々優しくはない」とお義母さんが言ってた。まあ、子供の時からずっと見てたからじゃない?www

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「え?なに?俺、優しくないの?」「うそ?え?なんで?」

実の母親から出た突然の毒に僕は理解が追い付かなかった。その夜は頭の中でいろいろな考えがぐるぐると巡って、僕は全く寝ることができなかった。

というのも、僕は男三兄弟の中で、一番頭が良くて両親からの評価も一番高いとずっと思っていたからだ。50年間、そう思っていたのにいきなり「あの子は優しくはない」とまで言われてしまったのだ。これが「昔は人見知りで大変だったんだから」とか「お手伝いとかも全然してくれなかったのよ~」とかエピソードで話されるのならわかる。でも弟嫁が社交辞令で「優しい息子さんですね」なんて言ってくれたのを受け入れず、孫(僕の息子)の前で「優しくはない」なんて人格否定までされてしまったのだ!

これが本当に納得できず、僕は一晩中記憶をたどっていく羽目になった。

僕は子供の頃から人見知りで、あまり人懐っこい感じではなかった。性格も天邪鬼で、素直じゃなく、可愛げもなかったかもしれない。でもクラスのいじめっ子というわけではないし、昆虫や小動物をいじめていたこともない。なんなら成績も優秀で運動神経もよく、女の子にもそれなりにモテた。自慢の息子のはずだ。

中学に入ると思春期全開、天邪鬼も悪化した。合唱コンクールで学級委員としてクラスをまとめようとしたが皆真面目に練習してくれず、若い女性の担任の先生がクラスで話し合うように言い出したところ、それまで練習していなかった輩達が手の平を返したように「みんなで協力してがんばれば・・・」みたいなことを言い出したのでムカついて「このクラスは何をやってもダメだから出場しなくていい」なんてことを言ってしまったことがある。”クソ生意気なガキが!”と当時の先生には映ったろうな。そんで後日三者面談でその担任が母に「息子さんは協調性がない」なんて言いつけたのを黙って聞いていたら、母は「この子はがんばっていることに気づいてもらえないと不貞腐れてしまうんです」と代弁してくれたのだ。学校にいるはずの担任が僕の努力に気づかず、母親が僕の性格を見抜いていたと分かった時、「この人は信頼できる人だ」と心から思ったものだ。

で、なんだかんだで中学でも生徒会長で公立のいい高校に行ったし、一浪して国立大学にも受かった。就職はうまく行かなかった(今も派遣社員)が、海外で15年近く仕事もして、それなりに自慢の息子だと思われていると思っていた。少なくとも兄と弟よりは。

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が、そんな全幅の信頼を寄せていた母に、僕のいないところで「あの子は優しくはない」と言われたのである。しかも妻子の前で。そのショックたるや・・・。

で、改めて記憶を辿ってみると、確かにまあ「優しい子」と言えるようなことはしていないことに気づいた。優しい子というのは例えば

・捨てられた子犬を「かわいそうだ」と家に連れてきてしまう。

・道に咲くたんぽぽにもお水をあげてしまう

・自分より小さい子にブランコや滑り台の順番を譲ってあげる

・自分より小さい子が泣いていたら「大丈夫」と声をかけてあげる

・親が家事をしていたら「僕も手伝う!」と手を貸す

・父の日、母の日に「いつもありがとう」と手紙やプレゼントをあげる

みたいなことができる子だろうが、確かに僕は一切これをしてきていない。親の手伝いをほとんどしてこなかったというのは致命的かもしれないし、子供の頃に父の日・母の日を祝ったことが一回もないのも確かにひどい(ま、それは兄と弟も同じなんだけど)。ちなみに僕は息子から父の日にイラストを描いてもらったことがあるし、息子は今実家でじいじやばあばのお手伝いを積極的にしているらしいので、それに比べると確かに僕は全然「優しくはない」。

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でも弟嫁の社交辞令をわざわざ訂正するほど、僕はひどかったのだろうか?親に対して冷たかったのだろうか。思春期でさえ親を罵倒したことなどなかったはずだが・・・。

というか、むしろ僕は遠い異国でいつも両親のことを思っている。貧しかったが本当にいい両親の下に生まれたと思っているし、常識があり愛情があり、近所からの信頼も厚い両親を誇りに思っている。(このブログにも両親のことを書きまくっている)。僕は僕なりに両親から学んで、それを息子に伝えようとがんばっている。

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ただし、一つ問題があるとすれば、僕は両親に感謝や敬意をストレートに伝えたことはない。態度で示したこともない。自分で勝手に「両親ならわかってくれるだろう」と解釈しているところはあるかもしれない。子供が生まれてから毎週1回、ビデオ通話をしているが、話しているのは嫁と息子だけ。「今さらアラフィフの息子と話すことはなかろう。孫が映っていたほうが親も喜ぶだろうし、嫁のほうが話しやすいだろう」と自分なりに気を遣っているのだが、これも僕の勝手な思い込みで両親からしたら「冷たい息子」に映っているかもしれない。

僕は別に両親に対してい失望したわけでもないし、怒りや恨みが生まれたわけでもない。両親からの意外な低評価には驚いたが、きっとそれは言葉や態度で示さず、人見知りや天邪鬼を言い訳にしてきた自分が悪い。僕が本当に優しくない人なのかどうかは嫁や息子が判断してくれるだろうし、親孝行はこれからも続けていく。

『親孝行プレイ』みうらじゅん 著 - 俺よ、男前たれ (hatenablog.com)

ただ・・・兄貴と弟も同じじゃないの?俺だけなの?